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各指孔の音程 (全域にわたる検討)


 実験のデザイン

私の作っている塩ビ水道管横笛は、内径13mm、唄口のサイズ10x12mm、指孔径9mmをスタンダードとしています。このスタンダードの指孔音程をもう少し詳しく調べようと考えて実験を行っています。

これまでは、指孔の音程に関してはC管の音域を中心に考えていたので、唄口から130〜300mmの指孔で実験をしていました。しかし、筒音の開口端補正のグラフを見ると、管尻が唄口から300mm以上離れるとそれ以下と違って管が長くなるに従って開口端補正が大きくなってゆきます。このあたりがどうなっているかを調べるために、唄口から300〜450mmの間の指孔についても検討を加えることにしました。

実験方法は、唄口から管尻までの距離が500mmの笛を作り、唄口から460mmのところに第1孔をあけ、以下25mm間隔に第7孔まで穴をあけました。この第7孔の位置が唄口から310mmという長い笛で、呂音と甲音のデータをとりました。
次いで、唄口から286mmのところに第8孔をあけ、以下25mm間隔に第14孔まで穴をあけました。しょして、この14孔の横笛で8〜14孔の呂音と甲音のデータをとりました。


 実験結果

fig.1は、気温22℃、内径13mm塩ビ水道管、唄口サイズ10x12mm、指孔サイズ9mmの14孔横笛での、周波数のデータです。全域にわたり双曲線に近いデータが得られています。しかし、周波数から音程はわかり難いので、これを音程のデータに直したのが、fig.2です。

fig.2のY軸の数値は、A(=440Hz)から半音の何倍離れているかを表しており、以下のような音程に相当します。

F# G# A# C# D#
−4 −3 −2 −1
10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31

計算式:  音程 = 12 * LOG ( 周波数 / 440, 2 )

fig.1
fig.2

fig.2のデータから近似式を作り、各音程に対する指孔の唄口からの距離を計算してみました。

呂音:   = - 0.006858 * ^3 + 0.5763 * ^2 - 22.23 * + 353.0

各音程に対する唄口から指孔までの距離 (mm)
呂音 F F# G G# A A# B C C# D D# E F F# G G# A A# B
位置 451.6 425.1 399.8 375.8 353.0 331.3 310.8 291.3 272.9 255.4 238.9 223.3 208.5 194.6 181.5 169.1 157.4 146.3 135.9

甲音:   = - 0.005100 * ^3 + 0.7185 * ^2 - 37.50 * + 708.1

各音程に対する唄口から指孔までの距離 (mm)
甲音 F F# G G# A A# B C C# D D# E F F# G G# A A# B
位置 451.5 425.1 399.8 375.7 352.7 330.8 309.9 290 271.1 253.2 236.2 220 204.7 190.2 176.6 163.6 151.5 140 129.2

この表が、22℃、内径13mm塩ビ水道管、唄口サイズ10x12mm、指孔サイズ9mmというスタンダードな笛の基本的な数値となります。後は、このデータ・、開口端補正を見ながら微調整して行くことになります。

ただし、表を見てわかるように、音程が高い位置では、同じ音でも呂音と甲音では、指孔の推定位置が6mmぐらい違うことになります。これは、内径13mmの横笛のオクターブ比が、高音域ではあまりよくないことに起因しているので、グラフや計算上の問題ではありません。下の開口端補正のグラフで、呂音と甲音の開口端補正が、唄口からの距離が125〜150mmの指孔では開口端補正が呂音/甲音で6mmぐらい離れているのが原因です。

実際に笛を作るにあたって、この2つの数値のどちらを取るかは難しい問題ですが、個人的には、甲音にかなり近い部分で笛を作り、呂音の高音域は、吹くときにメリで調整しています。しかし、それが正しい方法かはよくわかりません。


 開口端補正

 fig.3
fig.3は、22℃、内径13mm塩ビ水道管、唄口サイズ10x12mm、指孔サイズ9mmの場合の、開口端補正のグラフです。

筒音の開口端補正と同じように、唄口から350mm以上離れた指孔では、呂音と甲音の開口端補正はほぼ同じとなり、唄口からの距離が遠くなるにしたがって、開口端補正は大きくなります。

しかし、唄口から300mm以下の指孔では、呂音は唄口からの距離にかかわらずほぼ一定となり2おおmm以下になると少しずつ上昇するのに対して、甲音では、ほぼ直線的に唄口に近づくにつれて開口端補正は大きくなります。

今回の実験では、笛を吹く強さは中くらいで、なるべく高音域も低音域も同じような感じで吹くことを心がけました。しかし、吹く強さによってデータ化かなり違ってきてしまいます。

やや強めに吹くと、呂音では、唄口から125〜350mmふらいの指孔ではほとんど開口端補正が一定になってしまいます。350mm以上の部分も、もう少しスロープはなだらかになり、唄口から450mmぐらいの指孔でも、300mm付近の指孔と開口端補正は2mmぐらいしか違わなくなります。また、全体的に開口端補正の数値は1〜2mm小さくなります。

一方、甲音では、グラフの形として同じようになりますが、全体的に呂音と甲音の開口端補正の差は縮まり、唄口から150mmぐらいの指孔でも、呂音と甲音の開口端補正の差は3mm程度に減少します。ただ、唄口から350mm以上離れた指孔では、スロープがなだらかにはなるものの、呂音と甲音の開口端補正がほぼ同じになることは変わりません。

やや弱めに吹くと、音程が不安定になってデータがばらばらになりよくわかりませんが、全体的に開口端補正の数値は大きくなります。呂音では、指孔が唄口に近づくにつれて、開口端補正はだんだん小さくなってゆきます。

開口端補正を、唄口から指孔までの距離を、音速を、周波数を、倍音の倍数をとすると、

    = ( ) x ( / 2 ) −

という式が成り立ちます。

すると、指孔サイズの違いで、同じ周波数の音を出す状態が、

   L1 = ( ) x ( / 2 ) − K1
   L2 = ( ) x ( / 2 ) − K2

と2つあったとすると、

   L2L1 = − ( K2K1

ただし、の関数なので、正確には

   L2L1 = − ( K2(L2)K1(L1)

つまり、唄口からの距離がの指孔を、指孔サイズを変えてだけ移動しようと考えた場合、

    = − ( K2(L+L)K1(L

が2〜3mmであれば、K2(L) ≒ K2(LL) であり、開口端補正の差の分だけ唄口に近づければ良いことになります。
ただし、が大きければ、きちんとグラフを見ないといけません。

この考え方は指孔サイズ以外にもすべてにあてはまり、非常に便利です。


 オクターブ比
 fig.4


fig.4は、呂音と甲音の比(オクターブ比)を示しています。

22℃、内径13mm塩ビ水道管、唄口サイズ10x12mm、指孔サイズ9mmの場合、オクターブ比はこんな感じですが、これも吹く強さによってかなり変化します。

周波数が1.059倍になると半音上がることを考えると、オクターブ比が1.93というのは半音以上甲音が下がっているということです。

しかし、このあたりは13mm管の物理特性として仕方が無いので、メリカリで調整するしかありません。




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