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能管の音程の特徴


 能管と神楽笛・篠笛


上から、能管(蜻蛉)、宮流神楽笛(十二本調子ぐらい)、菊田直巻間尺笛(九本調子ぐらい)、獅子田八本調子囃子笛、六本半調子囃子笛。
我々の地域では能管のことを大笛とも呼び大きいイメージがあるのですが、管径が太いだけで、指孔の位置だけから言えば、能管は十本調子程度に相当します。

能管は、第2・3・4孔の音程間隔が半音ずつぐらいと狭く、調性感が無くて不安定な感じが、幽玄な雰囲気を作り出しています。ただ、篠笛で孔の位置を同じような風に作っても、指孔同士の音程幅や呂音と甲音のバランスは、能管と同じようにはなりません。これは能管に「のど」があるためで、このページではまず、篠笛・神楽笛と能管とを比較し、「のど」があることによって、どのように音程が変化しているのかを調べることにしました。

 音程

まず、一番わかりやすい音程で、宮流神楽笛と能管を比較してみましょう。
下の音程グラフの見方ですが、音程の数値はAの音(440Hz)を0として半音上がるたびに1増える数字で、小数点以下も意味を持っています。

音程 A# C# D# F# G#
音程値 10 11
12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35

横軸は、唄口から指孔までの距離(mm)です。距離で表しているので、笛による指孔の位置の差は補正されています。

式は、 音程 = 12 * log 2 ( 周波数 / 440 )


まず、能管の呂音を見てみると、唄口に近い方の音(第5〜7孔)では宮流神楽笛より多少音程が高く、管尻に近い方の孔(第2孔〜管尻)では多少音が低くなっています。一番差が大きい管尻では半音ちょっとの差がありますが、呂音の下の方は普通は使いませんので、全体としては、「呂音は、唄口に近い方の音が、半音の数10%高くなっている」というのが特徴と考えて良さそうです。

それに対し、能管の甲音は、管尻に近い方の孔では宮流神楽笛・ニ一緒ぐらいの音程ですが、唄口に近づくにつれてどんどん音程は神楽笛よりも下がり、唄口に一番近い指孔あたりでは、1音以上の音程差ができてしまっています。
1音以上と簡単に言いますが、1音は指孔ひとつ分ですので、かなりのものです。

結局、あまり使わない呂音の一番下の方は別とすれば、管尻に近い方の指孔では、神楽笛よりも呂音は少し低く甲音は少し高いものの、大きな差はないと言えます。しかし、唄口に近い方の指孔では、神楽笛よりも呂音は少し高く、甲音では極端に音程が下がっていて、甲音の指孔による音程差が圧縮されているというのが、楽器としての能管の特徴と言えると思います。

宮流神楽笛の呂音と甲音のグラフを比較して見ると、音程差はだいだい12で、ほぼ1オクターブです。第6〜7孔の甲音の音程は多少下がっていますが、半音の数10%程度です。
それに対して能管では、呂音と甲音の音程差は1オクターブでは無く、かなり不均一になっていることがわかります。呂音甲音の音程差が一番少ない第六孔では、甲音(24.2)と呂音(16.0)の音程差は8.2と少なく、一番音程差の大きい管尻では、逆に甲音(16.9)と呂音(3.2)の音程差は13.7もあります。両方とも、1オクターブ(12)からはかけ離れた数字になっています。

ただ、この音程の数値では微妙な変化がわかりにくいので、開口端補正と音程変位という2つの数値で、もう少し詳しく見て行きたいと思います。


 開口端補正

開口端補正は高校の物理で出てきますが、開管共鳴の場合は、実際に出ている音の波長(に倍音数の半分をかけたもの)から共鳴管の長さを引いたもので、以下の式で表されます。

  開口端補正 = ( 音速 / 周波数 ) X ( 倍音数 X 0.5 ) − ( 唄口から指孔までの距離 )

難しく考えずに、感覚的にとらえてみましょう。
唄口から指孔までの距離をAミリメートルとした場合、本来は呂音ではAミリメートルの半分、甲音ではAミリメートルの波長の音が出るはずなのですが、いろいろな事情によって音程が下がるため、実際に出てくる音の波長は(A+α)ミリメートルと長くなってしまいます(呂音はその半分です)。このαが開口端補正です。
つまり、唄口を吹いて音を出したとき、指孔までの距離の波長の音がでるはずなのに、実際の音は指孔からαミリメートルはみだした波長の音になってしまっているということなのです。

音程の方がわかりやすいことは確かなのですが、この開口端補正という数値は、音程のわずかな変化に対して非常に鋭敏に反応するので、グラフを見ながら設計図を作ったり下塗りの調整をしたりするのに、非常に便利です。



開口端補正を見てみると、神楽笛では、呂音と甲音の差は2mmぐらいであまり変化無く、唄口に近づくにつれて少しずつ上昇し、第1孔と第7孔では6mmぐらいの差があります。塩ビ管で普通の笛を作ると、甲音はやはりこんな感じですが、呂音は第1孔から第7孔でほぼ一定の数値をとります。いずれにしても、「のど」の無い普通の笛は、多少の差はあってもだいたいこのような形になります。

それに対して能管では、X字型のびっくりするようなグラフになります。第1孔と第7孔では、開口端補正の差が呂音甲音のいずれも30mmぐらいあり、しかも、呂音と甲音では逆方向に変化しています。

塩ビ管横笛に「のど」を入れて能管を作るには、「のど」を入れることによって、開口端補正のグラフを、この形にどのようにして近づけるかが問題となります。



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