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能管の各部分の計測




上が宮流神楽笛で、中が能管(プラスチック製)、下が唄用篠笛八本調子(朗童管)です。私の地域では能管のことを大笛とも呼び、大きな笛というイメージがあるのですが、これは宮流神楽笛(十二本調子ぐらい)が取り立てて小さいためです。八本調子の篠笛と比べてみると、唄口から指孔の距離や指孔間隔などは能管の方がずっと短く、能管は指孔の位置だけから言えば、十本調子ぐらいに相当します。


 測定した能管

私の持っている能管
  ・ プラスチック製の能管   ・ 「蜻蛉」銘の能管

先輩(成田政明師匠)から借りた能管
  ・ 菊田雅楽器店製のちゃんとした能管(菊田(大))  ・ 菊田雅楽器店製の練習用能管(菊田(小))

以上4つの能管でいろいろ計測したものをメインとし、ネット上の参考データなどを追加しました。


 能管の指孔の位置



以下の表の数値は、唄口の指孔側端から各指孔の唄口側端までの距離(mm)です。上の写真は「蜻蛉」銘の能管ですが、例えば「唄口から第七孔までの距離」は、上の写真の緑の線の間の長さを指しています。

蜻蛉・プラ能管・菊田(大)・HPの指孔の位置を見ると、ほとんど誤差範囲程度の差しかありません。それほど個体数があるわけではないのではっきりしませんが、おそらく能管の指孔の位置は、一般的なものは全国共通で、同じなのかもしれません。
ただ、菊田(小)だけは、全体に数値が大きいです。これは、菊田(小)は練習用の値段の安い能管で、かなり細身の竹で出来ています。そのため、同じ孔の位置ではピッチが上がってしまうため、・Eの位置を少し管尻側にずらしたものと考えられます。ここには出してありませんが、塩ビ管で作った能管も内径13mmしかないため、指孔の位置は管尻側にずらしてあります。
なお、HPは、http://www.mie-c.ed.jp/esugur/5nen-jidou-tukurikata1.htmのデータから逆算したものです。

指孔 蜻蛉 プラ能管 菊田(大) HP 菊田(小)
第7孔 101 98 101.5 100 103
第6孔 125 125 125.5 124.25 127.5
第5孔 147.5 148 148 148.25 150
第4孔 170 170 170 170.5 171.5
第3孔 192 191 190.5 192.25 193
第2孔 211 209 210 211.75 212
第1孔 230 228 229 230 231
管尻端 275 274 274 271.5 274


以下の表は、上の表から「指孔の間隔」を計算してみたものです。例えば、蜻蛉の第6孔の24という数字は、第7孔から第6孔までの距離(mm)、第5孔の22.5という数字は、第6孔から第5孔までの距離を表しています。

これを見ると、プラ能管の第7−6孔間がちょっと長く、HPの第1孔−管尻がちょっと短いですが、他は、大きな差は無いようです。

指孔 蜻蛉 プラ能管 菊田(大) HP 菊田(小)
第7孔
第6孔 24 27 24 24.25 24.5
第5孔 22.5 23 22.5 24 22.5
第4孔 22.5 22 22 22.25 21.5
第3孔 22 21 20.5 21.75 21.5
第2孔 19 18 19.5 19.5 19
第1孔 19 19 19 18.25 19
管尻端 45 46 45 41.5 43


 内径のデータ

計測はレントゲン写真(線源距離は1m)をスキャナーに取り込んでから測っているので、内径、つまり短軸方向には0.1mmの精度があると思います。今まであまり無かったデータではないでしょうか。

蜻蛉 プラ能管 菊田-大 菊田-小 蜻蛉 プラ能管 菊田-大 菊田-小
唄口管頭端 15.9 14.0 16.8 13.7 第7孔 15.1 15.2 15.9 13.0
唄口管尻端 15.5 14.0 16.4 13.7 第6孔 15.0 15.0 15.8 13.1
のど直前 15.0 14.0 16.1 13.8 第5孔 15.0 14.7 15.7 13.2
のど1cm 13.8 12.4 14.5 12.5 第4孔 14.9 14.5 15.5 13.4
のど2cm 13.3 11.7 13.1 11.7 第3孔 14.9 14.0 15.6 13.3
のど中央 13.2 11.7 11.9 11.3 第2孔 14.9 13.6 15.4 13.1
のど2cm 13.1 11.7 13.9 11.7 第1孔 14.7 13.2 15.2 12.7
のど1cm 13.5 12.7 14.9 12.4 管尻中央 14.2 12.8 14.7 11.7
のど直後 15.1 15.2 15.9 12.9 管尻開口部 13.3 12.4 12.0 10.9

このデータをグラフ化したものが、以下の図です。
グラフで見ると、「蜻蛉」銘の能管は、指孔付近の内径とのどの内径の差が少なく、のどの効きがやや少なめです。そのことは、音程測定でもはっきりと出ていますが、これは、師匠の能管に合わせて、わざわざのどの効きが少ないものを買ったからで、「蜻蛉」能管ののどの効きが一般的に少ないというわけではありません。
音程測定では菊田(大)ののどの効きが一番強かったですが、やはりこのグラフでも、のどと指孔付近の内径差は、菊田(大)が一番大きいようです。ただ、菊田(大)ののどは、テーパー部分が大きく、本当に狭いところは少しだけです。そのことは、このページ最後レントゲン写真ののどを見ると、もっとよくわかります。
プラスチック能管は、どういう能管をベースにしたのかわかりませんが、唄口部分と指孔部分の内径がかなり違いますし、指孔部分もテーパー形状になっているので、このグラフだけでは、のどの効き状態がつかみかねます。
菊田(小)は、指孔部分の内径が小さいため、他とはかなり状況が違うようです。

結局、常識的な能管は、本体部分の内径が15mmぐらいで、のどの部分の内径が12mmぐらいが普通だろうと仮定することにしました。別のページで、内径15mmのアクリル管に厚さ1.5mmののど(つまりのどの内径12mm)を入れて実験を行っていますが、これらの数値に基づいてセッティングしたものです。




 のどの長さと位置

のどの位置に関する実験のページを見るとわかりますが、のどの長さよりものどの位置の方が、はるかに音程に対して影響が大きいです。常識的には、唄口の指孔側端と第7孔の唄口側端の中央にあるものでしょうが、実際の能管で検証してみました。

のどの長さは、プラ能管だけ74mmで他は85mmぐらいですが、プラ能管はテーパー部分が短いので単純には比較できないのかもしれません。ただ、のどの長さの実験のページに書いたように、のどの長さは、もちろん音程の変化に影響はありますが、のどの内径や位置に比べると、音程に寄与する率は少ないので、おおざっぱに80mm前後と考えれば良いのかもしれません。

のどの位置は、蜻蛉と菊田(大)で、1mmだけ唄口に寄っていますが、意図的なものでは無さそうです。

蜻蛉 プラ能管 菊田(大) 菊田(小)
唄口−のど 8.5 12.1 8.6 9.1
のど−第7孔 7.2 11.7 7.2 9.1
のどの長さ 85.3 74.2 85.7 84.8


 唄口と指孔の大きさ

唄口サイズは、篠笛や神楽笛よりもかなり大きく、長径で15〜17mmもありますが、測ってみると、笛によって結構ばらつきがあるようです。長径/短径の比は、蜻蛉が1.29、プラ能管が1.32、菊田(大)が1.27でした。

指孔サイズは、蜻蛉・菊田(大)の長径で見ると、第7孔が10mm、第1孔が8.5mmぐらいで、第7から第1孔に向かうにつれて少しずつ小さくなって行きます。何故かプラ能管は全部同じくらいのサイズですが、ネット上のいろいろな写真を見ても、第7から第1孔に向かうにつれて少しずつ小さくなるのが普通のようです。

指孔 蜻蛉 プラ能管 菊田(大)
唄口 16.3x12.6 17.2x13.0 14.8x11.6
第7孔 10.1x8.6 9.9x7.6 10.0x8.3
第6孔 9.8x8.3 9.9x7.7 9.8x8.0
第5孔 9.7x8.2 9.7x7.6 9.9x8.1
第4孔 9.7x8.3 9.7x7.6 9.6x8.3
第3孔 9.2x7.8 9.9x7.7 9.4x7.9
第2孔 8.7x7.6 9.8x7.6 8.8x7.6
第1孔 8.2x7.4 9.7x7.6 8.7x7.6


 各能管のレントゲン写真と特徴

蜻蛉の特徴
のどの内径が13mmちょっとと大きく、音程的にもやはりのどの効きは少ない。
レントゲンでは下塗りの陰影が強く、砥の粉のたくさん入った下塗りを、かなりの回数行っていると思われる。ネット上に出ている能管のレントゲン写真を見ても、このように下塗りの陰影が強いのが普通で、菊田のようにレントゲン透過性が高い方が、普通では無いと思われる。
管頭と管尻は、いずれも別の竹で接いであり、管尻は細い竹になっている。
外装の巻きは、ナイロンフィラメント(おそらく黒のテグス)と絹糸を交互にまいてあり、指孔周辺は拭き漆で塗装してある。

プラスチック能管の特徴
第6孔から管尻にかけて、他の能管に比べ、かなり直線的に強くテーパー構造になっている。
第6〜7孔付近の内径が15mmちょっとあるのに、唄口付近の内径は14mmしかないのは不思議だが、見本にした能管がそうなっていたのかもしれない。

菊田(大)の特徴
のどの内部構造が、両側とも極端にテーパー状になっており、他の能管に比べ特徴的である。
管尻の内部にのど様の構造物を入れることにより、管尻の内径を極端に細くしている。
下塗りに含まれている砥の粉の量が、レントゲンでは非常に少なく、神楽笛などと同じような下塗りであるのかもしれない。

菊田(小)
全体的に内径が細い(第6〜7孔で13mm)ため、指孔の位置を、上記3本よりも管尻方向に2〜3mmずらしている。ただ、唄口部分は内径14mmと指孔部分より太くなっており、ピッチ調整で削って太くしているのかもしれない。
下塗りに含まれている砥の粉の量は」やはり少なく、神楽笛と同じような下塗りかもしれない。

蜻蛉


プラスチック能管


菊田(大)


菊田(小)



自作竹製能管5号 (比較のために載せた写真で、上のレントゲン写真とは直接関係ありません)



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